略式組織再編とは?特別支配会社(90%)の意味と簡易組織再編との違い

略式組織再編とは、ある会社が相手の会社の議決権の90%以上を持っているとき、支配されている側の会社の株主総会を省略して、合併や会社分割などを行える制度である。総会を開いても結論は見えているので、手間と時間を省く。
組織再編とは、合併・会社分割・株式交換のように、会社の形や事業の持ち主を組み替える手続のことだ。この記事では、架空の商社「A商事」が子会社の「B物流」を合併する話を通して、略式組織再編の考え方を見ていく。
※本記事は一般的な解説であり、法的な助言ではありません。筆者は弁護士ではなく、内容に誤りを含む可能性もあります。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
事例:90%以上を持つ子会社を合併したい
A商事は、物流子会社のB物流の株を85%持っている。残りは、A商事が100%持つ子会社のA倉庫が7%、昔からの取引先や元社員などの少数株主が8%である。A商事は、グループの物流をまとめるため、B物流を合併して自社の一部門にしたいと考えた。
合併のような組織再編は、原則として、それぞれの会社で株主総会を開き、特別決議で承認を受けなければならない。特別決議とは、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な、重い決議のことである。
しかし、B物流の株の大半はA商事グループが握っている。総会を開いても、可決されるのは確実だ。それでも総会を開くとなれば、招集の通知や書類の準備に時間と費用がかかる。結果の決まった手続にコストをかける意味は薄い。そこで、支配されている側の総会を省略できる仕組みが用意されている。
「90%」は、グループの持ち分を合計して数える
相手の会社の議決権の90%以上を持つ会社を、特別支配会社という。数えるときは、自社の持ち分に、自社が100%持つ子会社の持ち分も足してよい。
A商事の場合、自社の85%だけでは90%に届かない。しかし、100%子会社のA倉庫が持つ7%を足すと92%。A商事はB物流の特別支配会社になり、B物流の側では株主総会を開かずに合併を決められる。
なお、支配される側の会社が、定款で「90%」をもっと高い割合に引き上げていることもある。定款とは、会社の根本のルールを書いた書類のことだ。引き上げれば、略式が使える場面は狭まる。少数株主の発言の場を残したい会社のための選択肢。
省略できるのは「支配されている側」の総会だけ
注意したいのは、省略できるのが支配されている側の株主総会だという点である。B物流の総会は省略できるが、A商事の総会まで省略されるわけではない。A商事はB物流に支配されているわけではないからだ。
向きが逆になる場面もある。A商事が自分の事業の一部を、会社分割でB物流に移すときは、事業を受け取るB物流の側で総会を省略できる。どちらが「親」でどちらが「子」かで考えると分かりやすい。
また、新しく会社をつくる形の合併や分割には、略式の仕組みはない。相手がまだ存在しないので、支配関係を問いようがないからである。
事例の続き:親会社の側はどうするか
では、A商事の側の総会はどうなるか。ここで使えるのが、規模の小ささに着目した簡易組織再編である。
A商事は、B物流のほかの株主(A倉庫と少数株主、合わせて15%)に、対価として現金を合計1億5,000万円払う。A商事の純資産額は40億円。純資産額とは、資産から負債を引いた、株主の持ち分にあたる額のことだ。対価は純資産額の約3.8%にすぎず、5分の1以下なので、A商事の側は簡易組織再編として総会を省略できる。
結果として、B物流は略式、A商事は簡易で、両社とも株主総会を開かずに、取締役会などの決定だけで合併を進められる。グループ内の再編では、このように2つの仕組みを組み合わせることが多い。
それでも総会を省略できない場合
特別支配会社がいても、対価として、売るのに会社の承認が必要な株(譲渡制限株式)を渡す場合には、総会を省略できないことがある。
- 自由に売れる株を、売りにくい株に替えられる場合:たとえばB物流が上場していて、少数株主が市場で自由に売れる株を持っていたとする。合併の対価として、売るのに承認が要る株を渡されると、株主は大きな不利益を受ける。この場合は、特別決議よりさらに厳しい決議が必要になる。
- 株主の顔ぶれを大切にする会社が、自社の株を渡す場合:受け入れる側が非公開会社(株を売るのに会社の承認が必要な会社)で、対価として自社の株を渡すと、身内で固めてきた株主構成が変わってしまう。そのため、受け入れる側の総会は省略できない。
A商事の事例では、対価は現金で、B物流は非公開会社なので、どちらにも当たらない。
少数株主はどう守られるのか
略式組織再編では、B物流の少数株主(8%)が総会で意見を言う場がない。A商事が、合併の条件を一方的に決められる立場にあるとも言える。そこで、少数株主には2つの手段が用意されている。
1つは差止請求である。差止請求とは、株主が会社に対して「その再編をやめてほしい」と求めることだ。たとえば、B物流の財産の状況からみて、少数株主に払う対価が著しく安すぎるような場合には、少数株主は合併の差止めを求められる。
もう1つは株式買取請求である。株式買取請求とは、再編に反対する株主が、会社に自分の株を公正な価格で買い取るよう求めることだ。略式では総会がないので、特別支配会社であるA商事を除く株主は、反対の意思を示して買取りを求めることができる。
簡易組織再編との違い
略式と簡易は、どちらも株主総会を省略する仕組みだが、着目する点が違う。
| 項目 | 略式組織再編 | 簡易組織再編 |
|---|---|---|
| 着目点 | 会社同士の支配関係 | 再編の規模 |
| 基準 | 相手の会社が議決権の9割以上を持っている | 対価が純資産額の5分の1以下など |
| 総会を省略できる会社 | 支配されている側 | 対価を払う側・資産を切り出す側 |
| 定款での割合の変更 | 9割を引き上げられる | 5分の1を引き下げられる |
| 株主が再編の中止を求められるか | できる(対価が著しく不当な場合など) | 原則できない |
編集後記:略式は「結論が見えているから省く」、簡易は「影響が小さいから省く」。省く理由が違うので、略式では少数株主のために差止めの道が広く残され、簡易では原則として閉じられています。理由から入ると、細かな違いも筋が通って見えてきます。







