簡易組織再編とは?株主総会を省略できる「5分の1」基準をやさしく解説

簡易組織再編とは、合併や会社分割などが、その会社にとって規模の小さいものであるときに、株主総会の承認を省略できる制度である。規模の目安は「5分の1」。会社が払う対価が自社の純資産額の5分の1以下、または切り出す資産が自社の総資産額の5分の1以下であれば、取締役会などの決定だけで進められる。
組織再編とは、合併・会社分割・株式交換のように、会社の形や事業の持ち主を組み替える手続のことだ。この記事では、架空の食品会社「A食品」を例に、どんなときに株主総会を開かずに済むのかを見ていく。
※本記事は一般的な解説であり、法的な助言ではありません。筆者は弁護士ではなく、内容に誤りを含む可能性もあります。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
事例:大きな会社が小さな会社を合併するとき
A食品は、純資産額30億円の中堅メーカーである。純資産額とは、会社の資産から負債を引いた、株主の持ち分にあたる額のことだ。このA食品が、地方の小さな菓子メーカーを合併して、自社の一部門にしたいと考えた。
合併のような組織再編は、原則として、それぞれの会社で株主総会を開き、特別決議で承認を受けなければならない。特別決議とは、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な、重い決議のことである。
しかし、A食品から見れば、小さな菓子メーカーの合併は、少し大きめの設備投資と変わらない。そのたびに株主総会を開くと、招集の通知や準備に時間と費用がかかり、買収の好機を逃しかねない。株主への影響が小さいなら、経営陣の判断に任せてよい。これが簡易組織再編の考え方だ。
「5分の1」の物差しは、立場によって変わる
株主総会を省略できるのは、対価を払って受け入れる側と、資産を小さく切り出す側の会社である。立場によって、比べる相手が違う。
| 立場 | 主な場面 | 比べるもの |
|---|---|---|
| 対価を払って受け入れる側 | 合併で残る会社、事業を引き継ぐ会社、子会社にする側の親会社 | 払う対価 ÷ 自社の純資産額 |
| 資産を切り出す側 | 事業の一部を会社分割で他社に移す会社 | 移す資産 ÷ 自社の総資産額 |
払う側は、株主の持ち分がどれだけ薄まるか、どれだけお金が外に出ていくかを測るので、分母は純資産。切り出す側は、会社の財産のうちどれだけを手放すかを測るので、分母は総資産になる。ここを取り違えやすい。
なお、会社によっては定款で「5分の1」より厳しい割合を定めていることがある。定款とは、会社の根本のルールを書いた書類のことだ。株主の関与を厚くしたい会社は、簡易で済む範囲をあえて狭めている。
事例で計算してみる
A食品が菓子メーカーの株主に渡す対価は、自社株式10万株と現金5,000万円とする。株式は1株あたり純資産額5,000円で金額に直すと、10万株×5,000円=5億円。現金と合わせて5億5,000万円である。
純資産額30億円に対する割合は約18.3%。5分の1(20%)以下なので、A食品は株主総会を開かずに合併を決められる。一方、合併で消えてしまう菓子メーカーの側では、株主総会の承認が必要だ。会社そのものがなくなるのは、どれほど小さな会社でも、株主にとって最大級の出来事だからである。
次は切り出す側の例。B工業(総資産額80億円、純資産額20億円)が、帳簿上14億円の部品事業を、会社分割で他社に移すとする。帳簿上の金額とは、貸借対照表に載っている金額のことである。総資産額に対する割合は17.5%なので、B工業も株主総会を省略できる。純資産額と比べれば70%にもなるが、切り出す側の物差しは総資産額だ。
5分の1以下でも、株主総会が必要になるケース
対価を払う側では、割合が5分の1以下でも、次のような場合は株主総会を開かなければならない。
- 受け入れると損が出る場合:A食品が合併しようとした菓子メーカーが、実は資産より借金のほうが多かったとする。引き継ぐと、A食品に損失(差損)が生じる。こうした場面では、経営陣が株主に説明すべきなので、総会は省けない。
- 株主の顔ぶれを大切にする会社が、自社の株を渡す場合:株を売り買いするのに会社の承認が必要な会社(非公開会社)が、対価として自社の株を渡すと、身内で固めてきた株主構成が変わってしまう。そのため簡易は使えない。
- 一定数の株主が反対した場合:会社が再編を知らせてから2週間以内に、一定数(原則として議決権のある株式の6分の1を超える数)の株を持つ株主が反対を伝えたときは、総会を開いて決め直す。
また、簡易組織再編で進める場合、反対する株主が「株を買い取ってほしい」と会社に求めることや、再編をやめるよう求めることは、原則としてできない。影響が小さい再編なので、株主の側の手段も絞られている。ただし、取引先などの債権者が異議を述べる手続は、簡易でも省略されない。
略式組織再編との違い
株主総会を省略できる仕組みには、もう1つ略式組織再編がある。簡易が「再編の規模」に着目するのに対し、略式は「会社同士の支配関係」に着目する。
| 項目 | 簡易組織再編 | 略式組織再編 |
|---|---|---|
| 着目点 | 再編の規模 | 会社同士の支配関係 |
| 基準 | 対価が純資産額の5分の1以下など | 相手の会社が議決権の9割以上を持っている |
| 総会を省略できる会社 | 対価を払う側・資産を切り出す側 | 支配されている側 |
| 株主の反対で総会が必要になるか | なる(対価を払う側) | ならない |
| 株主が再編の中止を求められるか | 原則できない | できる(対価が著しく不当な場合など) |
1つの再編で両方が同時に使われることもある。たとえば、A食品が9割以上の株を持つ子会社を合併し、その対価がA食品の純資産額の5分の1以下なら、子会社の側は略式、A食品の側は簡易で、どちらも株主総会を開かずに済む。
編集後記:「5分の1」という数字だけを覚えると、分母が純資産か総資産かで迷います。払う側は株主の持ち分がどれだけ薄まるか、切り出す側は財産をどれだけ手放すか、と目的から考えると、分母は自然に決まります。







