自己株式の取得と売主追加請求権|特定の株主から買い取るときの手続と例外

売主追加請求権とは、会社が特定の株主だけから自己株式を有償で買い取ろうとするとき、他の株主が「自分も売主に加えてほしい」と求めることができる権利である(会社法160条3項)。一部の株主だけが有利な条件で株を現金に換えることを防ぎ、株主どうしの公平を保つための仕組み。
自己株式とは、会社が自ら発行した株式を、自分で取得して持っているもののことだ。会社が自社の株を買い戻すと、その代金として会社の財産が株主に出ていく。だから会社法は、誰から、いくらで、どれだけ買うかについて、細かく手続を定めている。
自己株式を買い取る原則の手続
会社が株主との合意で自己株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の決議で、取得する株式の数、対価の内容と総額、取得できる期間(1年以内)を決めておく(156条1項)。この決議は、原則として普通決議でよい。普通決議とは、出席した株主の議決権の過半数の賛成で成立する決議のことである。
そのうえで会社は、実際に買い取るたびに、1株あたりの価格などを決め(157条)、すべての株主に通知して、売りたい株主からの申込みを受け付ける(158条)。取得の条件は、決定ごとに均等に定めなければならない(157条3項)。買い取りに使える金額は、分配可能額の範囲内に限られる(461条1項3号)。分配可能額とは、配当などで株主に払い出してよい上限の額のことだ。
全員に同じ条件で売る機会があるので、ここまでは不公平は生じない。
特定の株主から買い取る場合と売主追加請求権
ところが、「創業メンバーの株主が引退するので、その人の株だけを買い取りたい」というように、特定の株主から買い取りたい場面は少なくない。この場合は、株主総会で、156条1項の事項とあわせて、通知を特定の株主にだけ行うことを決める(160条1項)。
この決議は、普通決議ではなく特別決議でなければならない(309条2項2号)。特別決議とは、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な、重い決議のことである。しかも、売主となる特定の株主は、原則としてこの総会で議決権を行使できない(160条4項)。自分に有利な決議を自分の票で通すことを防ぐためだ。
そして会社は、この決議をする前に、他の株主に対して「売主に自分を加えるよう請求できる」ことを通知しなければならない(160条2項)。通知の期限は、原則として株主総会の日の2週間前(会社法施行規則28条)。通知を受けた株主は、原則として総会の日の5日前までに、自分も売主に加えた内容を議案とするよう請求できる(160条3項、同規則29条)。これが売主追加請求権である。
なぜこの権利が必要なのか
株式会社ミナト精機(非公開会社)が、株主Aの株式だけを1株2万円で買い取るとする。株式の価値が実際には1株1万2,000円程度だとすれば、Aは得をし、その差額の分だけ会社の財産が余計に流出する。残った株主の持つ株式の価値は、そのぶん下がる。
非公開会社の株式は、市場で自由に売ることができない。Aだけが現金化の機会を得て、他の株主にはその機会がない、という不公平も生まれる。売主追加請求権があれば、他の株主も同じ条件で売ることを求められるので、こうした「抜け駆け」は起きにくくなる。
売主追加請求権が認められない場合
次の場合には、売主追加請求権は認められない。いずれも、他の株主を害するおそれが小さいか、別の手当てがある場面である。
| 場合 | 理由 | 条文 |
|---|---|---|
| 市場価格のある株式を、市場価格以下で取得する | 他の株主も市場で同じ値段で売れる | 161条 |
| 相続その他の一般承継で株式を取得した人から取得する | 会社にとって好ましくない株主の分散を防ぐ | 162条 |
| 子会社から取得する | 子会社が処分しなければならない親会社株式の受け皿となる簡易な手続 | 163条 |
| 定款で適用しないと定めている | 株主があらかじめ了解している | 164条 |
市場価格以下で取得する場合(161条)
上場株式のように市場価格のある株式を、市場価格以下で特定の株主から買い取る場合は、売主追加請求権は認められない。ここでの市場価格は、原則として株主総会の決議の前日の終値などで算定する(施行規則30条)。他の株主も、市場で同じかそれ以上の値段で売れるので、不公平は生じない。
相続その他の一般承継による場合(162条)
一般承継とは、相続や合併のように、前の持ち主の権利義務をまとめて引き継ぐことである。会社が、相続人などから、相続などで取得した株式を買い取る場合は、売主追加請求権は認められない。非公開会社では、相続で見知らぬ人が株主になるのを避けたいことが多く、買い取りを進めやすくしている。
ただし、会社が公開会社である場合や、相続人などがすでに株主総会でその株式の議決権を行使した場合は、原則に戻り、売主追加請求権が認められる。議決権を行使したのであれば、株主として会社に関わる意思を示したことになり、特別扱いする理由がなくなるからだ。
子会社から取得する場合(163条)
子会社は、原則として親会社の株式を取得してはならない(135条1項)。ただし、他の会社の事業の全部を譲り受けたときや、合併・会社分割で引き継いだときなどは、例外的に親会社株式を持つことがある(同条2項)。その場合、子会社は相当の時期に親会社株式を処分しなければならない(同条3項)。
163条は、親会社がその株式を子会社から買い取ることを、簡易な手続で認めるものである。取締役会設置会社であれば取締役会の決議で足り、157条から160条までの規定は適用されない。売主追加請求権もない。
定款で定めている場合(164条)
定款で、160条2項・3項を適用しないと定めておくこともできる。ただし、株式を発行した後に定款を変更してこの定めを設けるには、その株式を持つ株主全員の同意が必要だ。株主全員が、自分の権利がなくなることを了解しているので、他の株主を害するおそれがない。
そもそも手続の外にある無償取得
株主から無償で株式を譲り受ける場合は、売主追加請求権の問題にならない。無償取得は、156条以下の手続によらず、自己株式を取得できる場合として別に定められているからである(155条13号、施行規則27条1号)。
理由は、会社の財産が外に出ていかないことにある。対価を払わなければ、残った株主の持つ株式の価値が下がることはなく、他の株主を害しない。売主追加請求権は、会社の財産が特定の株主に流れることへの手当てなので、無償なら出番がない。
編集後記:売主追加請求権の例外は、一つずつ覚えようとすると数が多い。しかし、「他の株主が損をしないか」「別の形で手当てされていないか」という2つの問いを当てはめると、それぞれの例外が置かれた理由が見えてくる。







