法定担保物権と約定担保物権の違いとは?留置権・先取特権・質権・抵当権を比較

法定担保物権とは、当事者の契約がなくても、法律の定める条件を満たせば当然に生じる担保物権のことで、民法では留置権と先取特権がこれにあたる。約定担保物権とは、当事者の契約(設定契約)によって生じる担保物権で、質権と抵当権がこれにあたる。
担保物権とは、お金を貸したり代金を後払いにしたりしたときに、確実に回収できるよう、相手の物から優先的に回収したり、物を手元にとどめておいたりできる権利のことだ。担保される側の債権(貸したお金や売掛金など)を被担保債権という。
4つの担保物権を一覧で比べる
| 留置権 | 先取特権 | 質権 | 抵当権 | |
|---|---|---|---|---|
| 種類 | 法定 | 法定 | 約定 | 約定 |
| 条文 | 民法295条 | 民法303条 | 民法342条 | 民法369条 |
| どうやって生じるか | 他人の物を占有し、その物に関して生じた債権を持つとき | 法律が定めた種類の債権(給料、家賃など)を持つとき | 設定契約を結び、目的物を債権者に引き渡す(344条) | 設定契約を結ぶ。登記をすれば第三者にも主張できる |
| 物は誰が持つか | 債権者 | 債務者のまま | 債権者 | 債務者(または担保を出した第三者)のまま |
| 他の債権者より先に回収できるか(優先弁済) | ×(返さないことで支払いを促す) | ○ | ○ | ○ |
| 代わりの金銭にも及ぶか(物上代位) | × | ○(304条) | ○(350条で準用) | ○(372条で準用) |
物上代位とは、担保の目的物が売られたり壊されたりしたときに、その代金や保険金などに担保の効力を及ぼせることである。たとえば抵当に入っていた建物が火事で焼けたら、抵当権者は火災保険金から回収を図れる。ただし、保険金が支払われる前に差し押さえる必要がある(304条1項ただし書)。
法定担保物権:留置権と先取特権
留置権(295条)
留置権とは、他人の物を預かっている人が、その物に関して生じた債権の支払いを受けるまで、物を返さずに手元にとどめておける権利である。
たとえば、自動車整備工場のミナト自工が、取引先の配送会社から社用車の修理を頼まれ、修理代25万円を請求したとする。配送会社が支払わない間、ミナト自工は車の引き渡しを拒める。修理代は「その車に関して生じた債権」だからだ。一方、配送会社への別の貸付金を理由に、この車を留め置くことはできない。物との結びつき(牽連性)が必要になる。
留置権には優先弁済の効力がなく、物を返さないことで支払いを促す権利である。また、占有が不法行為で始まった場合、たとえば盗んだ物については成立しない(295条2項)。
先取特権(303条)
先取特権とは、法律が定めた特定の債権について、債務者の財産から、他の債権者より先に回収できる権利である。対象によって、債務者の財産全体に及ぶ一般の先取特権(306条:従業員の給料などの雇用関係、葬式の費用など)、特定の動産に及ぶ動産の先取特権(311条)、特定の不動産に及ぶ不動産の先取特権に分かれる。
動産の先取特権の代表例が、不動産賃貸の先取特権である(311条1号・312条)。貸しビルの家主は、未払いの家賃などについて、借主がその建物に備え付けた動産(家具や設備など)から優先的に回収できる(313条2項)。
先取特権があっても「自分で差し押さえる」ことはできない
ここで誤解しやすいのが、先取特権の「実行」のしかたである。家賃を滞納されているからといって、家主が借主の部屋に入り、パソコンや家電を持ち出して売ることは許されない。
先取特権は「優先して回収できる」という順位の権利であり、家主が自分の手で物を取り上げてよいという権利ではない。動産の先取特権を実行するには、民事執行法に定められた担保権の実行手続(動産競売。民事執行法190条)を使い、執行官を通して差押え・売却をしてもらう必要がある。執行官とは、裁判所に所属し、差押えなどの強制執行を実際に行う公務員である。
法律の手続によらずに自分の力で権利を実現することを、自力救済という。日本では、自力救済は原則として禁止されていると判例で考えられており、無断で物を持ち出せば、逆に損害賠償を求められたり、刑事責任を問われたりするおそれもある。担保物権があっても、回収は裁判所の手続を通すのが大原則。
なお、留置権は物をすでに手元に持っている状態を続けるだけなので、自力救済にはあたらない。留置権者が物を換価したいときも、民事執行法の競売の手続による(同法195条)。
約定担保物権:質権と抵当権
質権(342条)
質権とは、債権の担保として受け取った物を手元に置き、支払いがなければその物から優先的に回収できる権利である。質権は、目的物を債権者に引き渡すことで効力が生じ(344条)、担保を出した人に代わりに持たせておくこともできない(345条)。物を手放すことで「返してほしければ払う」という圧力が働く仕組み。
弁済期より前に「払えなければ質物をそのまま自分のものにする」と約束することは、民法では禁じられている(349条)。
抵当権(369条)
抵当権とは、債務者などが物を手元に置いたまま担保に差し出した不動産から、他の債権者より先に回収できる権利である。工場や本社ビルを担保に銀行から借り入れるときに使われるのがこれだ。
会社は担保に入れた工場で操業を続けながら借入金を返していけるので、事業を止めずに資金を調達できる。返済が滞れば、銀行は裁判所に申し立てて競売にかけるか、賃料などの収益から回収する(民事執行法180条)。
非典型担保もある
民法に定められた4つのほかに、実務では譲渡担保や所有権留保といった、契約で工夫した担保もよく使われる。所有権留保とは、代金を払い終えるまで売主が所有権を持っておく方法で、機械や車の分割払いでよく見られる。これらは条文に正面から定められていないため、非典型担保と呼ばれる。
編集後記:担保の種類を覚えるときは、「契約が要るか」と「物を誰が持っているか」の2つで分けると整理しやすくなります。どの担保でも、最後に回収するときは裁判所の手続を通す、という点はセットで覚えておきたいところです。







